2025年も東京圏への転入超過は12万3,534人。若い世代を中心に人は東京へ集まり続けています。一方で東京23区の新築マンション平均価格は1億3,613万円に達し、「東京で働き続けるのが本当に得なのか」を考え直す人も増えました。答えは一つではありません。賃金・住居費・物価・車・自治体の支援をどう組み合わせるかで、損得は家庭の形ごとに逆転します。厚生労働省・総務省などの公的データを使い、4つの家庭パターンで「毎月残るお金」と資産形成・キャリアへの影響を試算しました。
前提:税金はどこに住んでもほぼ同じ。差が付くのは5つ
まず誤解の多い点から。「地方は住民税が高い」と言われることがありますが、住民税の所得割は標準税率10%で全国共通です(超過課税は神奈川県の+0.025%など、ごく小さいものが一部にあるだけ。住民税の仕組みと計算)。所得税・社会保険料率も全国同一。つまり「税金の安い町」を探しても意味はほぼありません。実際に差が付くのは次の5つです。
| 差が付くもの | データで見た差 | 出典 |
|---|---|---|
| 賃金 | 東京 月40.4万円/全国 33.0万円/最低の沖縄 26.6万円(一般労働者・所定内給与) | 厚労省 令和6年賃金構造基本統計調査 |
| 住居費 | 物価指数で東京127.2に対し最低の岐阜は81.3——約1.6倍差。全費目で最大の地域差 | 総務省 消費者物価地域差指数2024 |
| 物価全体 | 東京104.0(12年連続1位)に対し群馬96.2。総合ではわずか1.08倍 | 同上 |
| 車のコスト | 地方は「大人1人に1台」が前提になりやすく、維持費は1台あたり年数十万円 | ―(家計により大きく変動) |
| 自治体の支援・公共料金 | 東京都の018サポート(月5,000円)等の独自支援、国民健康保険料や水道料金の自治体差 | 各自治体 |
物価の総合差は8%しかない。勝負は「住居と車」
食料品や日用品の地域差は意外と小さく、総合の物価差は東京と最下位県で1.08倍にすぎません。家計を左右するのは住居費(最大1.6倍差)と車の保有台数、そして世帯の稼ぎ方です。以下のパターン別試算もこの3点を軸にしています。
パターンA:20代単身——毎月の収支はほぼ互角、差は「その後」に付く
賃金も家賃も高い東京と、どちらも低い地方。単身の若手では意外にも毎月のフローは拮抗します(金額は前提を固定した概算です)。
| 月あたり(概算) | 東京 | 地方都市 |
|---|---|---|
| 額面給与 | 30万円 | 25万円 |
| 手取り(目安) | 約24万円 | 約20万円 |
| 家賃(ワンルーム) | △9万円 | △4.5万円 |
| 車の維持費 | 0円(不要) | △2万円(1台・軽の目安) |
| その他生活費 | △11万円 | △10万円 |
| 残るお金 | 約4万円 | 約3.5万円 |
差が付くのはフローではなくキャリアの選択肢です。東京都だけで年6万5,219人の転入超過(2025年)が続くのは、それだけ求人と昇給機会が集積しているからで、転職による年収の上げ幅は東京が有利になりやすい構造です。20代は「稼ぐ力を育てる投資期間」と割り切って東京、と考える合理性は残ります。一方、実家近くに住んで家賃をゼロに近づけられるなら、地方の圧勝になり得ます。単身の損得は「実家という資産」を使えるかで決まる面が大きいのです。
パターンB:共働き+子ども——「共働きを続けられる場所」が正解
世帯年収1,000万円(東京・共働き)と800万円(地方・共働き)、子ども2人、住宅を購入するケースです。
| 月あたり(概算) | 東京(世帯1,000万円) | 地方(世帯800万円) |
|---|---|---|
| 世帯手取り | 約65万円 | 約53万円 |
| 住宅ローン返済 (35年・金利1.5%) | △21.4万円 (郊外7,000万円) | △12.2万円 (4,000万円) |
| 車の維持費 | 0〜△2.5万円(0〜1台) | △5万円(2台) |
| 住居と車を引いた残り | 約41〜43万円 | 約36万円 |
収支は東京がやや優位に見えますが、これは夫婦とも東京水準の給与で働き続けられる場合の話です。どちらかが退職・時短になれば収入差は縮み、住宅費の重さだけが残って逆転します。つまりこのパターンの本質は「東京か地方か」ではなく「共働きを続けやすいのはどちらか」。保育の入りやすさ、通勤時間、親のサポートが判断材料になります。
自治体の支援も無視できません。東京都は018サポート(0〜18歳に月5,000円)や保育料・高校授業料の負担軽減、水道基本料金の無償化(2026年度)など独自支援が手厚く、「東京は高いが子育て支援も厚い」構図です。地方側も自治体ごとの上乗せがあり、全国の子育て支援まとめで候補地を比べられます。医療費助成や国民健康保険料(自営業の場合)は自治体差が大きい代表例です。
パターンC:片働き4人家族——「同じ年収なら地方」がもっとも明確
年収500万円の片働き・子ども2人。収入が同じ前提なら、地方の優位がもっともはっきり出るパターンです。
| 月あたり(概算) | 東京(賃貸) | 地方(購入) |
|---|---|---|
| 手取り | 約33万円 | 約33万円 |
| 住居費 | △13万円(郊外2LDK賃貸) | △9.2万円(3,000万円ローン・35年1.5%) |
| 車の維持費 | 0円 | △5万円(2台) |
| 残るお金 | 約20万円 | 約18.8万円+持ち家(広さ2倍) |
毎月の残額は近くても、地方は同じ支出でローンが資産(持ち家)に変わり、住まいの広さも段違いです。ポイントは「同じ年収の仕事が地方にあるか」。公務員・教員・看護師・薬剤師など全国で給与水準が近い職種は、この地方優位を最大限受け取れます。逆に、東京でしか成立しない年収なら前提ごと崩れます。フラット35利用者調査でも、土地付注文住宅の所要資金は首都圏5,791万円に対し全国平均5,007万円で、地方圏はさらに低くなります。
パターンD:リモートワーク——「東京の給与×地方の生活費」は数字上の最適解
東京の会社に籍を置いたまま(年収700万円)、テレワークで地方に住むケース。賃金と住居費の「良いとこ取り」で、試算上はもっとも残るお金が大きくなります。
月あたりの試算(概算)
| 手取り(年収700万円) | 約44万円 |
| 住宅ローン(3,500万円・35年1.5%) | △10.7万円 |
| 車1台 | △2.5万円 |
| 住居と車を引いた残り | 約30.8万円(東京在住・家賃15万円なら約29万円→差は住居の質と広さに表れる) |
さらに、東京23区の在住者・通勤者が対象地域へ移住してテレワークで仕事を続ける場合も、移住支援金(世帯100万円+18歳未満の子1人につき最大100万円)の対象になり得ます。要件と対象自治体は移住支援金まとめで確認してください。
リモート移住の3つのリスク
①会社の出社回帰で成立しなくなる(規程の変更は自分では止められません)②昇進・異動が東京勤務前提の会社では機会損失があり得る ③転職しようとした瞬間、地元の求人相場に引き戻される——「東京給与×地方生活」は雇用契約に依存した状態だという自覚が必要です。
資産形成への効き方——月数万円の差は30年で数千万円
ここまでの「残るお金」の差は、長期の積立投資に回すと大きく増幅されます。年5%で運用できたと仮定した場合の目安です(新NISA活用ガイド)。
毎月の差額を30年積み立てると(年5%・概算)
月3万円 → 約2,500万円(元本1,080万円) / 月5万円 → 約4,160万円(元本1,800万円)
もう一つの資産形成が持ち家です。東京は値上がりしてきた実績(23区新築は2025年に前年比21.8%上昇)がある一方、高値づかみ・金利上昇・修繕費のリスクも大きくなりました。地方の住宅は値下がりしやすく「資産」より「住む消費」と割り切る考え方が現実的です。「金融資産で増やす地方型」と「不動産も含めて増やす東京型」という整理ができます。購入時の税制は住宅ローン控除、保有中の負担は固定資産税を参照してください。
今日やること
- 手取りに対する「住居費+車」の割合を計算する(この2つが地域差のほぼすべてです)
- 移住を少しでも考えているなら、候補自治体の子育て支援・国保料・支援金を調べる(全国の子育て支援まとめ・移住支援金まとめ)
- 「残るお金」の差額分を新NISAの積立設定に落とし込む
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
住民税は地方のほうが高いのですか?
いいえ、ほぼ同じです。住民税の所得割は標準税率10%で全国共通で、超過課税を行う自治体でも差はごくわずかです。所得税や社会保険料率も全国同一です。地域差が大きいのは税金ではなく、国民健康保険料(自営業などの場合)、水道料金、保育・医療費助成といった自治体ごとの制度です。
東京と地方で、生活費はどのくらい違いますか?
総務省の消費者物価地域差指数(2024年)では、総合の物価は東京104.0に対し最下位の群馬96.2で、差は約8%にとどまります。一方、住居だけを見ると東京127.2に対し最低の岐阜81.3で約1.6倍の差があり、全費目で最大です。生活費の地域差は実質的に「住居費と車のコスト」で決まります。
移住するとお金はもらえますか?
東京23区の在住者または通勤者が対象地域へ移住し、就業・起業・テレワーク継続などの要件を満たすと、移住支援金として世帯100万円(単身60万円)、さらに18歳未満の子1人につき最大100万円が加算される制度があります。対象自治体や細かい要件は自治体ごとに異なるため、移住支援金まとめの記事と各自治体の窓口で確認してください。
結局、どちらが得なのでしょうか?
家庭の形によって逆転します。単身の若手は毎月の収支はほぼ互角でキャリアの選択肢は東京優位、共働き子育て世帯は「共働きを続けやすい場所」が正解、収入が変わらない片働き世帯や全国一律給与の職種は地方優位が明確、東京の給与を維持できるリモートワークは数字上の最適解です。前提(給与・家賃・車の台数)を変えると結論も変わるため、本記事の表に自分の数字を入れて試算してください。
- 厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況(都道府県別賃金)
- 総務省統計局 消費者物価地域差指数(小売物価統計調査〈構造編〉2024年結果)
- 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告 2025年結果
- 不動産経済研究所 マンション市場動向(2025年 東京23区新築平均1億3,613万円)
- 住宅金融支援機構 2024年度フラット35利用者調査(土地付注文住宅の所要資金)
- 内閣官房・内閣府 地方創生 移住支援金
※ 本記事の試算は前提を固定した概算であり、実際の金額は給与・金利・家賃・家族構成などで大きく変わります。運用利回りは保証されるものではありません。本記事は一般的な情報提供であり、個別の判断は税務署・税理士・ファイナンシャルプランナー等にご確認ください。







